新しい文学の団体

 ペンをもっている指先で、ひろ子のおでこをまじないのようにぐりぐりした。「それを云っているのは、俺の方だよ。かんちがえをしないでくれ」 その時分、そろそろ新しい文学の団体も出来かかりはじめていた。十数年前にも一緒に仕事をしていたような評論家、詩人、作家などが、また集って、口かせのはずされた日本の...

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三五年の初夏

 寝台を買ったのは三五年の初夏であった。或る早朝、ひろ子がたった一人そのベッドに寝ていた二階の屏風越しに、ソフト帽の頭がのぞいた。それは、ひろ子をつれてゆくために、風呂場の戸をこじあけて侵入した特高の男であった。 風知草の鉢は、ひろ子が友人にゆずって出たその家の物干で、すっかり乾からび、やがて棄て...

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作品の発表

 三年たった四一年には、ぐるりの有様が一変していた。作品の発表を「禁止されるような作家」と、そうでない作家との間には、治安維持法という鉄条網のはられた、うちこえがたい空虚地帯が出来ていた。更に、一方には中国、満州と前線を活躍する作家たちの気分と経済のインフレーション活況があって、ひろ子の立場は、まる...

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